生活習慣を変えて脳梗塞の再発を防ぐ

脳梗塞は再発しやすい病気です。再発すると脳の障害部分が広い範囲にまで及ぶ可能性が高くなるため、重症化しやすく、命に関わることも少なくありません。そんな脳梗塞の再発を防ぐには、しっかりとした予防対策をおこなう必要があります。しかし、脳梗塞を含む脳卒中の予防に近道はありません。普段の生活の中から意識して、まずは健康でストレスのない生活を続けることが大切です。

不健康な生活習慣をどれだけやめられるかが、脳梗塞の再発予防のカギを握る

脳梗塞を含む脳卒中の再発率は、年間約5%といわれており、10年間で約半数の患者が再発したというデータもあるほど再発率の高い病気です。
そんな脳梗塞の再発を予防するには、いかに不健康な生活習慣を改善できるかがカギとなります。
一度脳梗塞を発症したことのある方ならご存知かと思いますが、当然ながら飲酒や喫煙、偏った食生活などは脳梗塞の危険因子を引き起こすもとになるため、十分な注意が必要です。

  • 食生活の改善…食べ過ぎや栄養バランスの偏った食生活を続けてしまうと、高血圧や糖尿病など様々な危険因子を持つメタボ体型に繋がってしまうため、改善が必要。
  • 適度な運動…肥満防止、ストレス解消、血行促進などの効果があり、脳梗塞の再発予防解消に大きく関与する要素の一つ。
  • ストレス&疲労…ストレスは暴飲暴食や睡眠不足などを招き、不規則な生活から身体にも疲労が蓄積されます。ストレスや疲労が蓄積されると、血液が固まり脳梗塞のもとになる血栓ができる恐れも。
  • 過度な飲酒…大量にお酒を飲んでしまうと血液成分や血圧などに悪影響を与え、再発のきっかけとなる危険因子を作ってしまう危険性があります。
  • 喫煙…血液の流れを悪くし、脳へ送る酸素の運搬を妨げてしまう危険性があります。ニコチンの影響により血管の収縮や血圧の上昇を招き、さらに血管を詰まりやすくする恐れも。

これら5つのポイントを、以下でさらに詳しく解説していきます。
脳梗塞の再発予防に向けてぜひ参考にしてください。

脱・メタボ!食事管理と規則正しい生活を維持する

メタボ体質の方は脳梗塞の予備軍とされ、脳梗塞の危険因子とも呼ばれる「高血圧」、「糖尿病」、「高脂血症」、「心疾患」などを引き起こす可能性が高まります。
また、高血圧や糖尿病の方が脳梗塞を発症しやすいということは、脳卒中や心血管疾患などの疫学調査を行っている九州大学久山町研究室が調査したデータでも明らかにされています。

血圧レベル別にみた脳梗塞発症率

成人の血圧の基準値は、129/84mmHg未満。データによると、血圧が120/80 mmHgの場合に比べ、高血圧とされる180/110 mmHgのほうが6倍近くも脳梗塞の発症率を高めてしまうそうです。なお、高血圧の場合は収縮期の血圧を10~20mmHg下げることで、脳卒中の発症率が50%も減少することが分かっています。

図6 血圧レベル別にみた脳梗塞発症率 引用元:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
(http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph36.html)

糖尿病と脳梗塞発症率

糖尿病の場合は、発症していない人に比べ脳梗塞の発症率が3倍以上も高くなるという結果に。血糖コントロールの指標となるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値を1%低下させることで、脳梗塞を含む脳卒中の発症率は12%減少するとされています。

図7 糖尿病と脳梗塞発症率 引用元:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
(http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph36.html)

このようにメタボ体質を解消することは、高血圧や糖尿病など、脳梗塞の原因となる危険因子を予防するうえでも非常に大切です。
そのためには、食習慣の改善により適正体重を目指し、十分な睡眠をとるといった規則正しい生活リズムを整えるよう心がけましょう。

意識的に日常生活に運動を取り入れる

脳の血管を健康的な状態に保つには、日常生活に適度な運動を取り入れることも重要です。
運動には脳梗塞の予防に繋がる以下のようなメリットがあります。

  • 血流が良くなる
  • 内皮細胞が活性化され、強い血管が作られる
  • 基礎代謝が高まり、脂肪の燃焼が促進されるためメタボ解消に繋がる
  • 動脈硬化を防ぐ

新小山市民病院の院長で、血管病の予防・治療を専門とする島田和幸先生によると、脳梗塞を予防するには、1回30分以上の運動を毎日続けることが大切だそうです。
まずは手軽に始められるジョギングやウォーキング、ストレッチなどから始めてみると良いでしょう。基本的に有酸素運動であればどんなものでも構いとのこと。太極拳や社交ダンス、水泳といった自分の趣味と組み合わせて、なるべく毎日体を動かすことを意識しましょう。
本格的な運動を毎日続けるのが難しいという方は、「階段を使う」「1駅分歩いて帰る」など、いつもの生活にちょっとした運動を取り入れてみるだけでもOK。なによりも大切なのは、継続することです。

運動不足になったときのリスクについて

運動不足は、脳卒中や心筋梗塞などの、血管系の疾患の死亡率と密接に関わっており、運動不足になることで脳卒中や心筋梗塞での死亡率が高くなります。

日本人約7万人を10年間調査した結果、1日の歩行時間が30分~1時間だった人と、30分未満だった人を比較したところ、その死亡率は約0.5%上昇するという報告があります。この調査では、歩行時間が長く、運動時間が多い人ほど死亡率が低いことが分かったのです。

脳梗塞は再発しやすい疾患ですが、この結果から、運動不足の状態で再発すると、死亡リスクが高まると考えられます。

また、先にご紹介したように、運動は動脈硬化を予防して健康な血管を作り出すため、脳梗塞を再発させる危険性が高まることは間違いないでしょう。

持病や後遺症によっては運動に注意が必要

運動は血管や体を健康的に保つために欠かせないものですが、体調や体の状態によっては、運動に注意が必要な場合もあります。

特に、脳梗塞によって後遺症を抱えている方や、糖尿病、高血圧などの慢性疾患が悪化している方では、体の状態をよく見ながら運動をすることが大切です。

表2 運動療法のリスク
1.転倒による打撲・骨折
2.関節可動域訓練による骨折・捻挫
3.血圧上昇または低下
4.不整脈の出現・増加
5.狭心症の出現
6.ケイレン発作
7.低血糖発作
8.脳卒中再発
9.過用・誤用症候
10.その他

出典: Jpn J Rehabil Med VOL. 32 NO. 5 1995『(PDF)運動負荷とそのリスク』

こちらは、リハビリ中のリスクを挙げた一覧表ですが、運動をしているときに脳卒中が再発する、血圧が異常に上昇する、血糖値が低くなりすぎるなどのリスクがあります。

また、麻痺や痙縮などの後遺症で、体が思うように動かないという方は、骨折や捻挫をしないように強度が低く安全性の高い運動をするようにしてください。

いずれにしても、後遺症や慢性疾患を持病として持っている方は、医師に相談の上で運動に取り組みましょう。

良質な睡眠を取るためには

健康的な生活習慣でカギを握る睡眠ですが、ただ長時間眠るだけでなく、「質の高い睡眠」をとることが大切です。

質の高い睡眠をとるためには、室内の温度を整えること、体に合った寝具を整えることも大切ですが、その他、様々な要素に左右されます。

そこで、良質な睡眠をとるための方法をいくつかご紹介するので、ぜひ実践して、脳梗塞の再発予防に役立ててください。

精神的緊張を緩和させる

良質な睡眠をとるためには、眠りに就く前にリラックスしているほうが良いでしょう。

ストレス負荷映像の場合には心拍RR間隔の減少が観察され,交感神経活動が優位に働き,副交感神経活動が抑制されることが示されている.

出典:バイオメカニズム学会誌, Vol.29, No.4(2005)『(PDF)良質な睡眠のための環境づくり―就寝前のリラクゼーションと光の活用―』

このように、緊張やストレスによって活動を司る交感神経が活発になると、体は休める状態になりません。眠りに就くスムーズさに影響を与えている部分なので、ストレッチや入浴、音楽などで気持ちをリラックスさせましょう。

睡眠前・睡眠中の照明環境を整える

照明は睡眠に大きな影響を与えていて、眠りに就く時間に過度に明るい光を見ると、脳は覚醒状態になってしまいます。

また,メラトニンは照度依存性を示し,照度が高く受光量が多いほど分泌が抑制され,覚醒度の上昇へとつながる.

出典:バイオメカニズム学会誌, Vol.29, No.4(2005)『(PDF)良質な睡眠のための環境づくり―就寝前のリラクゼーションと光の活用―』

脳が覚醒状態になる理由は、光を浴びることによって、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の分泌量が少なくなるため。睡眠前は、明るさを抑えた温かい昼光色の照明を使って、メラトニンの分泌を促進させると効果的です。

ストレスや疲労をためない生活を送る

体にストレスや疲労が溜まると、血液が固まりやすくなり、「血栓」と呼ばれる脳梗塞を引き起こす危険因子が作られてしまいます。
ストレスは、自分でも気付かないうちに溜めているというケースも少なくありません。ストレスの要因は人によって様々で、日常のあらゆる場面に隠れています。
代表的な例として、

  • 職場での人間関係
  • 残業が多く休みが取れない
  • 将来に対する不安
  • 夫婦間、家族間の関係性
  • 睡眠不足

などが挙げられます。

なかでも睡眠は、生活習慣における大切な要素の一つです。不規則な生活で寝不足が続くと、ストレスや疲労が溜まり、体力の低下にも繋がります。
また、ストレスは暴飲暴食といった食生活の乱れを招く恐れもあるため、なるべく溜め込まない生活を意識することが大切です。
できるだけ過労を避け、十分な睡眠時間を確保するよう心がけましょう。

百害あって一利なし、脳梗塞予防に禁煙は必須

脳梗塞予防において、禁煙は必須要素です。脳梗塞を含む脳卒中を予防するには、血液の流れを良くし、脳に酸素を送り届ける必要があります。しかし、たばこを吸い続けていると血液がドロドロになり、脳への酸素の運搬を妨げてしまうのです。
また、たばこに含まれるニコチンは、血管の収縮や血圧の上昇をもたらす恐れがあるため、さらに血管を詰まりやすくします。

脳卒中の発症・死亡リスク

喫煙者の脳卒中の発症リスクは、非喫煙者に比べ、1.51倍高いと言われています。また、1日に21本以上のたばこを吸う人は、非喫煙者に比べて男性の場合、2.17倍、女性の場合だと3.91倍も高いとされています。
しかし、たばこを長年吸い続けている方でも、2年間禁煙すると脳卒中・脳梗塞のリスクは減少し、5年間禁煙を続けると、非喫煙者と同レベルまでリスクを抑えることができると言われています。
「今さら遅い」と思う方も多いようですが、禁煙すれば確実にリスクは下げられるので、諦めず禁煙を始めてみましょう。

大量の飲酒は控え休肝日をつくる

20g程度(日本酒の場合約1合)の少量のアルコールであれば、コレステロールを低下させるといった良い影響を与えます。しかし、過剰な飲酒は血液成分や血圧などに異常をきたし、再発のきっかけとなる恐れがあるので注意が必要です。

1日平均3合以上お酒を飲む人は要注意

1日のアルコールの摂取量が日本酒にして3合以上の方は、「時々飲む」という方に比べ、脳卒中の発症率が1.6倍高いと言われています。一方、1日平均1合未満の人の場合は、時々飲む人より4割ほど脳梗塞・脳卒中にかかりにくいそうです。
アルコールにはデメリットとなる血圧上昇作用以外にも、善玉コレステロールである「HDLコレステロール」の血中濃度を上げる作用や血液を固まりにくくするといったメリットになる働きもあります。
そのため、アルコールは飲んではいけないということではなく、一定以上の量を飲まないよう注意することが大切です。大量の飲酒を控え、適度に休肝日をつくることを意識しましょう。

脳卒中予防で大切な3つの要素とは

脳梗塞を含む脳卒中の再発予防を行なう上で注目しておきたいポイントとして、3つの「R」要素を紹介します。

1、Recognize(危険因子を発見する)

健康診断を定期的に受け、自分の体に危険因子が発生していないかチェックしましょう。早期発見は再発予防において1番重要な要素です。

2、Reduce(危険因子を減らす、治療する)

自分の体に起きている危険因子を、生活習慣の改善や治療などでできる限り減らす、または無くすよう努めましょう。危険因子の有無が再発を左右すると言っても過言ではありません。

3、Respond(発作に反応する、早期に受診する)

万が一脳卒中の自覚症状が出た場合は、軽度や一時的なものでもすぐに専門の医師に診てもらうようにしましょう。ちょっとしたことでも油断は禁物です。

脳梗塞を含む脳卒中の予防・再発予防ともに、この3つのRを意識した生活を送ることが大切です。
特に再発予防には、薬物療法の継続と早期の検診、前兆や発作への素早いレスポンスが重要となります。
生活習慣の改善を含め、これらの要素を意識することは、脳梗塞の再発率を大幅に低下させることに繋がるため、普段の生活の中から強く心がけるようにしましょう。

この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献