喫煙・飲酒

過度の飲酒や喫煙が体へどのような影響を与えるのか、脳梗塞との関係などについて考えてみましょう。

喫煙や過度な飲酒の危険性とは

喫煙や飲酒が体へ与える悪い影響は様々あります。タバコには4000種類以上の化学物質が含まれており、その内体へ害となるものは200種類以上。ニコチンやタールなどがその代表的なものです。

これらの有害物質は、血管を収縮させたり傷つけてしまいます。さらに、悪玉コレステロールと言われるLDLコレステロールを増やしてしまう作用もあり、血管の内側に血栓を作ったり血流を阻害してしまうことがあるそうです。

また、飲酒に関しても、アルコール摂取量が多くなると血管を収縮させる作用があることが分かっています。

喫煙や飲酒と脳梗塞の関係

前述のように、大量の飲酒や喫煙には血管の収縮を促して血圧を上げてしまう作用があります。また、飲酒をすると利尿作用があるので脱水症状を起こすことも。

すると、ドロドロ血になったり血栓ができて血流が阻害されてしまい、脳梗塞や心筋梗塞などの血管系の疾患のリスクが高まってしまうのです。

喫煙や大量の飲酒は、血管の詰まりを招いて血流を滞らせ、脳梗塞など命に関わる重大な疾患を招いてしまう恐ろしい行為であることを、きちんと認識しなければなりません。

飲酒と喫煙が血圧を上げる?

血圧は、血管の抵抗性と血液を送り出す力によって決まるため、血管が収縮して血管の抵抗性が高まると、自然と血圧も上がっていきます[1]。飲酒と喫煙で血管が収縮する理由は、次の通りです。

  • アルコール

アルコールを摂取すると、血管を収縮させる交感神経が優位になり、血圧が上がると考えられます。また、血管平滑筋という血管の調整を行っている筋肉が、アルコールによって刺激されるからだと考える説もあります[2]。

  • たばこ

たばこで血管収縮作用をもたらす物質は、「血漿エンドセリン」という物質です。血漿エンドセリンは末梢血管を収縮させます。また、たばこの中のニコチンは、アルコールと同様、自律神経を交感神経優位にさせます[3]。

飲酒に利尿作用がある理由とは

飲酒に利尿作用があるのは、脳の働きと関係しています。脳下垂体後葉からは「抗利尿ホルモン」が分泌されていますが、アルコールはそのホルモンの分泌を抑えるのです。

抗利尿ホルモンの分泌が少なくなると、腎臓からはたくさん水分が出るようになり、尿の量が多くなります。ですが、このときの尿ではナトリウム排出量は増加しないため、動脈硬化になりやすくなるでしょう[4]。

生活習慣の見直し

高血圧は脳梗塞に繋がる危険な状態ですが、生活習慣の見直しを行うだけで、比較的簡単に改善できる可能性もあります。まず見直しを行っていきたい部分は、次のような項目です。

・塩分を控えた食生活をする ・肥満気味の場合は減量をする ・毎日の適度な運動を心がける ・飲酒は適量に留める ・禁煙

高血圧の改善で一番大切なことが、塩分を減らすことです。塩分を摂りすぎると血中の塩分濃度が高くなり、それを薄めるために血液の中の水分量が増え、血管に負担がかかってしまいます。

そして、肥満気味の場合は、さらに脂肪組織から血圧上昇を促す成分が分泌されているので、内臓脂肪を中心に減少を行うだけで、血圧が安定することもあります。

肥満の解消に欠かせないのが運動ですが、同時に血行を改善して血圧を下げる効果も期待できます。ただし、運動は血圧を上昇させる効果もあるので、軽い運動から無理なく始めましょう。

飲酒は1日に日本酒1合程度(純アルコール20mg)なら、血圧を低下させますが、過度の飲酒は一気に血圧を上昇させます。喫煙は高血圧にプラスに働くことはないので、出来るだけ禁煙をしてください。

投薬

高血圧治療で用いられる降圧薬には様々なものがありますが、大きく分けて6種類に分類されます。

・カルシウム拮抗薬 血圧を下げる効果が確実な治療薬です。血管に入るカルシウムを減らし、血管を拡張させます。

・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB) 副作用が少ないタイプの治療薬です。アンデオテンシンというホルモンの働きを抑えて降圧させます。

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬 副作用として咳が出るようになります。アンデオテンシン自体を減らす治療薬です。

・利尿剤 摂取した水分と塩分を排出させることで降圧作用をもたらします。他の降圧薬をサポートする作用も。

・β遮断薬 血管収縮作用をもたらす交感神経の心臓への働きを抑え、血圧を下降させます。不整脈、喘息悪化などの副作用があります。

・α遮断薬 交感神経の血管への働きを抑えて、血圧を下降させます。起立性低血圧の副作用があります。

一般的には、これらの内のどれかを処方して、効果や副作用を見ながら、少しずつ量を増やしていきます。治療薬には降圧作用がありますが、生活習慣を改善して高血圧の原因を解消していかなければ、ずっと降圧薬を飲み続けることになってしまいます。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞という脳梗塞は、日本人の脳梗塞の約半数を占めていると言われています。比較的軽い症状の場合が多いですが、再発することで、認知症やパーキンソン症候群を引き起こす可能性もあります。脳梗塞の中でも、特に高血圧との関連性が強いと言われているのがラクナ梗塞です。

ラクナ梗塞の特徴は、脳に通っている細い動脈が詰まり、15mm以下の小さな梗塞が起きることです。脳の血管が高血圧などによってダメージを受けると、「微小動脈瘤」と呼ばれる小さなコブができ、血管壁が脆くなって血栓が作られます。微小動脈瘤の部分で血栓が詰まるとラクナ梗塞になり、脆くなった血管が切れれば脳出血となるのです。

梗塞が非常に小さい場合は、無症状のラクナ梗塞となる場合もあります。その場合、無症状のまま繰り返し再発し、周囲の人も気が付かないまま認知症や高次脳機能障害を引き起こす可能性もあるようです。ですが、例え無症状であっても、MRI検査を受ければ容易に発見に至ります。

アテローム血栓性脳梗塞

アテローム血栓性脳梗塞は、首や頭部の太い動脈が動脈硬化を起こすことが根本的な原因です。日本人の脳梗塞では、約20%がアテローム血栓性脳梗塞だとされています。発症時の症状としては、手足の片麻痺、感覚障害、失語、失認などの他、心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症の合併なども見られます。

「アテローム」というのは、動脈の「アテローム硬化」のことを指しています。アテローム硬化とは、動脈が固くなった状態で、血管内部にコレステロールなどの脂肪が蓄積され、血管が狭くなった状態のことです。

狭くなった血管内に血栓が作られ、完全に血流が遮断されてしまった場合や、はがれて血流に乗った血栓が他の部分で詰まることで、アテローム血栓性脳梗塞が引き起こされます。

アテローム血栓性脳梗塞は、脂質異常症、糖尿病、高血圧などの状態の方で発症率が上がるため、生活習慣や食生活の改善によって、発症率を低下させることが可能です。

心原性脳塞栓症

心原性脳塞栓症は、脳ではなく心臓部分でできた血栓が原因となる脳梗塞です。日本人の脳梗塞の20~25%程度を占めており、脳梗塞の症状はかなり重くなる場合が多く、後遺症が残る可能性も高いと言われています。

「心原性」というのは、「心臓が原因の」という意味を持っており、その名の通り心臓病が原因となります。心臓に不調を抱えていると、不整脈や心機能の停滞などで、心臓部分の血流がスムーズではなくなります。それが原因で、心臓周辺の血管で血栓が作られるのです。

心臓部分で作られた血栓は、血液が流れる勢いに乗って、はがれて別の場所に行きつくことがあります。その血栓が脳に運ばれ、脳の動脈を塞いでしまった場合に発症するのが、心原性塞栓症です。

心原性脳塞栓症の原因となりやすい心疾患は、心房細動、心筋梗塞、リウマチ性心臓病、心筋症などが挙げられます。また、高血圧だと心筋の細胞に大きな負担をかけるため、心疾患を引き起こしやすくなります。

喫煙や過度の飲酒を指摘されたら…
効果的な対策とは

アルコールの摂取量が1日60gを超える人は、脳梗塞の発症リスクが通常の1.7倍近くになると言われています。

アルコール60gというのは、日本酒なら5合、350mlの缶ビールで5本以上の量。これだけ過剰に摂取すると、やはり体に悪影響があるのは目に見えています。喫煙の場合はさらに影響が大きく、1日に1本でも吸う人は、喫煙しない方に比べて4倍近くも脳梗塞のリスクが高まるとさえ言われているのです。

命を脅かす重大な疾患を避けたいのなら、禁煙は必須。タバコはできるだけ吸わない努力をしましょう。

飲酒も適切な量を守ることが大切です。日本酒は1合、ビールは500ml缶1本までに押さえておけば、逆に血流を促進したり、ストレスを解消する健康作用があるそうですよ。

飲酒と脳梗塞の関係性の研究

飲酒と脳梗塞の関係性を調べた研究結果は多く、こちらでご紹介するのは、1990年に行われた11年間の研究の結果です。40~59歳の男性を対象としており、その対象数は約20,000人という人数に及びます。

アルコール摂取量が日本酒にして「1日平均3合以上」の人は、「時々飲む」人に比べて、1.6倍脳卒中になりやすいことがわかりました(図1)。アルコールには血圧上昇作用がありますので、高血圧の有無を考慮しますと、上記の関係は少し弱くなりますが、依然として1.4倍脳卒中になりやすい事がわかりました。

出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター『飲酒と脳卒中発症との関連について』

こちらには1.6倍と記載されていますが、詳細な結果を見ると、その数値は「1.64倍」が正確なようです。

飲酒は高血圧の原因になると言われますが、血圧の要素を抜いたとしても、1.4倍も脳梗塞のリスクが高まりまると言うのです。

この研究でも明らかにされていませんでしたが、飲酒は高血圧を引き起こす以外に、脳梗塞のリスクを高める原因があると考えられるでしょう。

喫煙と脳梗塞リスクの関係性について

喫煙によって脳梗塞のリスクが約4倍高くなるという情報は、注意喚起として厚生労働省の「禁煙マニュアル」にも記載されています。

①血圧高値の場合 喫煙と高血圧は日本人が命を落とす二大原因であることがわかっています。喫煙と高血圧が重なると、いずれも該当しない人と比べて、約 4 倍、脳卒中や心臓病で命を落とす危険が高まります。

出典:厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課編『(PDF)禁煙支援マニュアル(第二版)』

喫煙をしていて、高血圧であった場合という条件の下で約4倍のリスクとなっていますが、ニコチンは血管を収縮させて血圧を上げるため、喫煙と高血圧という二つの要素を同時に持っている方は、少なくないと考えられます。

喫煙はなぜ脳梗塞のリスクを高める?

喫煙がこれほどまでに脳梗塞のリスクを高める原因は、一言では言い表せないほど多岐に渡ります。

  • 交感神経への刺激で血管が収縮し、血圧が上昇
  • 酸化物質によって血管の内皮細胞が劣化
  • フリーラジカル(活性酸素)が悪玉コレステロールを増加させる
  • 一酸化炭素で血液中の酸素が不足する

喫煙をするということは、血液中のコレステロールを増加させ、血管を劣化させる上、その血管を縮まらせて血液の通りを悪くします。

そのような血管の状態で、少なくなった酸素量を補うため、たくさんの血液を送り出さなければならなくなるのです[1][5]。

飲酒と脳梗塞発症のリスクについて

飲酒は「百薬の長」と言われることもありますが、スイスの「世界保健機関(WHO)」によると、飲酒が原因となる疾患は60以上とされています。

飲酒によって脳梗塞のリスクが高まる原因としては、次のようなものが挙げられるでしょう。

  • 長期的な大量飲酒で高血圧を引き起こす
  • 脂質異常症になるリスクが高まる
  • 心房細動などの不整脈の原因となる

実は、アルコールも少量であれば、脳梗塞発症のリスクを軽減させると言われています。リラックスする程度の飲酒であれば、血圧を低下させる効果があるとされているので、「百薬の長」の考えも全くの嘘ではありません。

ですが、適量を超えた飲酒は、先にご紹介しているように、脳梗塞の原因を作り出すものとなります。

血圧が上がった上に、血液内の中性脂肪は増加してドロドロになるのですから、もちろん血栓は作られやすくなるでしょう。さらに、心臓が血液を送り出す働きにも支障が生じてきます[1]。

また、少量のアルコールは脳梗塞のリスクを軽減させますが、脳出血だけは別です。脳出血は、摂取アルコール量に比例して、純粋にリスクが上昇するとされています。

いずれにしても、飲酒をする場合は、「1日に20gのアルコール」を目安にしてください。

この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献

[1]国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス|[32] 飲酒、喫煙と循環器病

[2]公益社団法人 大阪生活衛生協会|(PDF)飲酒と動脈硬化性疾患

[3]岡山医学会|(PDF)薬物相互作用(9―喫煙と薬の相互作用)

[4]公益財団法人 日本醸造協会|(PDF)飲酒の生理

[5]公益財団法人 日本心臓財団|喫煙と循環器病