脳梗塞の後遺症にはどのようなものがある?
脳梗塞を含む脳卒中の中で、最も心配になるのは後遺症のことでしょう。脳性麻痺や言語障害、認知障害など、日常生活に支障が出る後遺症が多いと言われています。日常生活に戻れるまで入院できるのか?再発を予防するには、どんなことに気をつければ良いのか?など、脳梗塞の後遺症について整理していきましょう。
脳梗塞や脳出血など、脳卒中による後遺症の症状
脳梗塞を発症すると、脳のダメージを負った部分の機能が低下し、重い後遺症が残るケースも少なくありません。
引き起こされる後遺症としては様々なものがありますが、代表的な症状としては、次のようなものが現れます。
脳性麻痺・痙縮・拘縮
脳の体を動かす働きを持つ部分がダメージを負い、体の半分が動かせなくなる、動かしにくくなるなどの症状が現れます。半身の手足に出ることが多いですが、顔や口元に麻痺が残ることも。
麻痺や痙縮、拘縮を訴える方は非常に多く、脳梗塞の後遺症としては代表的なもの。ただし、早めにリハビリを始めることで改善する希望も残されています。
その他の体に現れる後遺症
麻痺や痙縮、拘縮以外にも、しびれや痛みなどの感覚異常を訴える方もいます。その他、めまいを感じやすくなる、食べ物が飲み込みにくくなる嚥下障害を起こすなどの場合も。
しびれや痛みによってリハビリが思うように進まない、嚥下障害によって誤嚥性肺炎を引き起こすなど、二次的症状が現れることもあるので、適切なリハビリと治療が大切です。
高次脳機能障害
脳にダメージを負うことによって、認知機能や記憶機能、言語機能などが低下する後遺症です。高次脳機能障害が残った場合、言語障害、認知症のような症状、記憶障害などが引き起こされます。
会話や筆記、計算に加え、日常的な活動ができなくなることもありますが、言語聴覚療法などでリハビリを行うことで改善する可能性もあります。
脳梗塞の予後に懸念される後遺症とリハビリ
脳梗塞が発症したら、後遺症の軽重を問わず速やかにリハビリテーションを行うことが大事。
脳梗塞のリハビリは機能の回復だけでなく、再発の防止にも繋がっているのです。
麻痺
脳が障害を受けた部分と反対側の手足に片麻痺が発生し、手足に力が入らなくなる、歩行が難しくなる、転びやすくなるなどの状態になることです。中には、文字を書きにくいなどの症状が現れることも。脳梗塞の後遺症の中でも代表的な後遺症で、多くの方に見られる後遺症です。
マッサージや外部から体を動かすことで、症状の軽減・回復を図ります。拘縮を防ぐためにも、早い段階からリハビリを始目なければなりません。麻痺の改善は、脳梗塞発症後約半年で回復の限界に達すると言われていましたが、磁気刺激や電気刺激、細胞移植などのリハビリや治療方法によって、半年後以降でもさらなる改善が見込めるようになりました。
言語障害
脳がダメージを受けることで、言葉が出ない・ろれつが回らないなどの言語障害が起こることもあります。会話は理解できるがうまく話せない構音障害と、会話が成立しなくなる失語症の2タイプに分かれます。
話す・聞く・読む・書くなどの機能がどれだけ残っているかをチェックし、患者の状態に応じたリハビリを行います。言語聴覚士による専門的な訓練以外にも、家族による日常的なサポートが必要です。また、摂食・嚥下障害などのリハビリも、言語聴覚療法として行われます。
記憶障害・高次脳機能障害
脳がダメージを負うことにより、過去の経験や出来事を思い出せなくなったり、新しい情報を覚えられなくなる状態。記憶する能力が大幅に減衰したり、直前の記憶が消失するなどの症状も見られます。
言語聴覚士による言語聴覚療法が中心。残された言語能力のうち比較的ダメージが軽い側面を利用し、意思の疎通・会話の成立などの機能を回復させていきます。リハビリの進行具合は人によって異なり、言葉がうまく話せない歯がゆさから患者自身のストレスも多くなります。家族や支援者のサポートが何より大切です。
脳梗塞の後遺症「記憶障害・高次脳機能障害」について詳しく知る >
しびれ
後遺症として最も訴えが多い症状で、脳の神経経路や感覚中枢にダメージを負い、実際には起きていない「しびれ」が起きていると脳が誤認してしまうことが原因です。後遺症として現れるしびれには、感覚中枢にダメージを受けたことによる「中枢性のしびれ」と、麻痺に関連した「末梢性のしびれ」の2種類があります。症状は、感覚が麻痺する感覚鈍麻や感覚消失、ビリビリ感のある異常感覚などです。
末梢性の痛みやしびれがあるケースでは、手足のリハビリと一緒に痛みのケアも行います。通常の痛み止めなどは効果がなく、抗うつ剤や抗けいれん薬などが効く場合があるので、いくつかの薬を試行錯誤しながら、しびれの様子を見ていきます。
めまい
脳梗塞の後遺症としてもめまいの症状が残ることがあります。これは脳への血流が不足することで脳貧血を起こしてしまって起こるめまいで、フワフワとしてふらつく浮動性のめまいと、グルグルと目が回る回転性のめまいの2種類があると言われています。
体を平行に保つリハビリなどを行います。立ったり座ったり、ゆっくりと歩行するなどのリハビリを繰り返すことで、徐々に体が平衡感覚を取り戻していき、めまいやふらつきが改善されていくことが多いそうです。
廃用性症候群
廃用性症候群は、脳梗塞に限らず何らかの疾患やケガなどで体の機能が低下してしまい、動かさない状態が長く続いた場合に起こる症状です。体や脳を働かせない期間が長引くことで、体の機能だけでなく、自律神経や精神面でも障害が現れることがあります。
脳梗塞の急性期治療が終わり次第、体を動かすリハビリを開始して、できるだけ体の機能を衰えさせないように促すことが大切。発症直後は立って歩くことができなくても、関節を拘縮させないように手足の曲げ伸ばしや回転を繰り返したり、体を起こして座る姿勢を続けるだけでも効果的です。
拘縮(こうしゅく)
拘縮は痙縮によって引き起こされる後遺症です。痙縮のために可動域が制限されると、長時間に渡って手足を動かさなくなるため、関節が固まってしまう拘縮が引き起こされます。
拘縮は後遺症ではなく、麻痺や痙縮によって引き起こされる症状なので、リハビリを早めに開始して拘縮を予防することが一番です。もし、拘縮が引き起こされてしまった場合は、作業療法によるハンドセラピーなどで機能の回復を図ります。拘縮予防のためのリハビリ支援機も開発されているため、これらを使用するのも一つの方法です。
痛み
後遺症による痛みは、しびれと並んで訴える方が多い症状です。引き起こされる原因もしびれと同様で、脳の感覚を処理する部分である視床にダメージが与えられたことで、実際には起きていない「痛み」が起きていると脳が誤認することによります。「中枢性の痛み」と「末梢性の痛み」の2種類があることも、しびれと同じです。
脳梗塞後の痛みは治療方法が確立されておらず、鎮痛剤もあまり効果を発揮しません。そのため、痛みが全く改善されない場合もありますが、中枢性の痛みのリハビリで「視覚と感覚の整合性を高める」という方法を用いたところ、痛みが劇的に改善したという例もあります。
脳梗塞の再発リスク
脳梗塞は再発しやすい病気の1つ。年間の再発率は5%と言われており、1年間で20人に1人の患者が再発しているのです。再発が起こりやすいのは、発症してから半年~1年以内とされています。
なぜ脳梗塞は再発しやすいのか。それは、脳梗塞患者のほとんどが発症の引き金となる危険因子を持っているからです。
危険因子には高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・飲酒・肥満などがあり、これらのリスクを日常生活の改善で減らしていくことが重要です。
再発を防ぐためには、日常生活の改善と共に、指示された薬の服用・リハビリテーションの継続も必要です。適切な薬物治療を行うことで、再発の危険性が30~70%減らせるとも言われています。症状が安定しているからと油断しないようにしましょう。
後遺症と向き合い、再発を予防することが大切
脳梗塞を含む脳卒中は、心筋梗塞など他の疾患と比較しても、再発リスクが非常に高いことで知られており、脳梗塞の年間再発率は約5%と言われています。
ですが、脳梗塞の再発は予防できるものなので、簡単に取り組める予防方法を見つけて、行動を始めることが大切でしょう。代表的な再発予防方法としては、脳梗塞の危険因子である生活習慣病の予防や血圧の管理、抗血栓療法を受けることなどが挙げられます。
これらの脳梗塞再発予防を実践しながら、後遺症を改善するためのリハビリに取り組んでいきましょう。患者一人では難しい部分もあるため、家族のサポートも大切です。
最大の危険因子である高血圧を改善
脳梗塞をはじめとする脳卒中の最大の危険因子は、高血圧だと言われています。血圧をしっかりと管理することは、脳梗塞の再発予防だけでなく、その他の疾患の予防にもなるため徹底したいところです。
目指すべき血圧の目標は、140mmHg/90mmHg未満です。血圧は降圧治療でもコントロールできますが、降圧治療を受けた方は、脳梗塞の再発が3割も少なくなると報告されているため、その重要性がわかるでしょう。
高血圧改善のための方法とは
高血圧を改善するための方法は様々で、「高血圧治療ガイドライン2014」によると、次のような生活習慣の改善が望ましいとされています。
- 食生活の見直し…摂取する塩分やコレステロールを減らして必要な栄養素を摂取する
- 適正な体重の維持…[体重(kg)]÷[身長(m)×2]を25未満にする
- 運動…速めのウォーキングなど「ややきつい」程度の有酸素運動を1日合計30分行う
- 節酒…1日の摂取量は日本酒1合、ビール中瓶1本までで、女性はその半分まで
- 禁煙…禁煙をすることはもちろん、受動喫煙にも注意する
- 生活習慣の改善…ストレスの軽減、熱すぎる入浴・冷水・サウナは避けるなど
- 特定保健用食品…降圧薬の補助として高圧効果のある特定保健用食品を摂取する
このように見ると、血圧は日常の生活全般から影響を受けていることが分かり、生活を根本から改善していくことが大切だと言えるでしょう。また、食事については次の項目で、少し詳しくご紹介します。
食事でできる脳梗塞の再発予防
高血圧改善のところでも触れた食生活の改善ですが、脳梗塞の再発予防には、食事が大きなカギを握っています。
脳梗塞再発予防の食事で気を付けるべきところは、塩分を摂りすぎないこと、コレステロールや脂肪分を摂りすぎないこと、必要な栄養素をしっかりと摂れること、血液をサラサラにする食品を取り入れることなどです。
塩分の摂取量は最大6.5g/日までに抑える
塩分は高血圧の大きな原因となるため、食事の際に最も気を付けたい部分です。「高血圧治療ガイドライン2014」によると、降圧効果を実感するためには、1日に摂取する食塩量を6.5gまで減らさなければならないと記載されています。
ただし、6.5gという食塩量は摂取限界値なので、高血圧改善のために目標とするべき数値は6g未満が理想的です。
塩分量を抑えるための方法
減塩のために注意すべき食品は汁物や漬物で、食べる量や回数を減らす、汁やスープは残すようにするなどの工夫をしてください。
塩分量が少なくなると食事が薄味になり、物足りないという方もいるでしょうが、レモンや酢、香辛料を使って味にメリハリをつけることがおすすめ。また、一品だけ塩分量を増やすことも、飽きずに食事をするためのポイントです。
降圧効果のある栄養素を摂りながらバランス良く
脳梗塞の再発予防で理想的な食生活は、先にご紹介したように、塩分や脂肪分を抑え、野菜や果物を積極的に摂取することです。
1日に必要な栄養素をバランスよく摂ることが大切ですが、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維が多い食品は、血圧を下げる効果があるとされているので、高血圧予防にも効果的でしょう。
血液サラサラ効果のある栄養素を摂取
脳梗塞の再発を予防するためには、血管を詰まらせないことが一番です。そして、そのためには、血液をサラサラな状態にして、血栓を作らせないことが大切。
血液がサラサラになると言われている栄養素は豊富にあるため、それらを含んだ食品や健康食品は、積極的に取り入れるようにしましょう。
血液をサラサラにしてくれる栄養素とは?
アリシンやナットウキナーゼ、DHA、EPA、ポリフェノールなどの栄養素は、コレステロール値を改善して、血液をサラサラにする効果を発揮してくれるとされています。
また、酵素も血液をサラサラにする働きがあるとされるため、脳梗塞の再発予防に効果が期待できます。ただし、酵素を食品から摂取することは難しいので、サプリメントや健康食品を利用すれば簡単に摂取可能でしょう。
退院後の生活環境を整える
急性期・回復期のリハビリを終えた後は維持期に入るため、退院して自宅でのリハビリ生活が始まります。そのため、患者がリハビリをしやすい環境を整えておくことが大切です。
自宅の整備について
まず、トイレやバスルームに手すりを設ける、玄関に踏み台や手すりを設置する、室内の段差をなくすなど、移動しやすいように自宅をリフォーム修繕することは、生活環境を整えるために一番理想的な方法です。
ですが、その他にも、主に生活する部屋を変える、滑りやすいフローリングに滑り止めマットを敷く、家具を動かして移動しやすくするなど、少しの変化で変えられることもあります。
また、福祉用具はレンタルすることもできるので、必要なものがあれば自治体に相談してみましょう。
リハビリテーション施設の利用について
退院後のリハビリは自宅で行うだけではなく、リハビリテーション施設や専用の病院を利用して行うことも多いでしょう。
保険適応外となりますが、質の高いリハビリサービスを提供している施設は増えていますし、訪問リハビリを行ってくれる施設もあります。
また、通所リハビリにもいくつかの種類があり、1~2時間という短時間で個別にリハビリが受けられる施設や、8時間程度の長時間に渡り、集団でリハビリを受ける施設もあります。
受けられるサービスによって、内容はもちろん、利用料金や保険適用の有無も異なるので、後遺症の重度や受けたいサービスに合わせて適したものを選びましょう。
この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献
- 東京高輪病院:脳卒中後遺症とその治療
- 脳梗塞リハビリセンター:脳梗塞の後遺症
- 株式会社メドレー:脳梗塞での回復期リハビリテーション病棟の役割と診療報酬上の条件
- 回復期リハビリテーション.net.:脳疾患・骨折・関節手術の後には
- 日本脳卒中協会:脳卒中後の痛みとしびれ
- 日本脳卒中協会:嚥下障害
- J-STAGE:3.脳血管障害(2)再発予防と後遺症への対応,日本内科学会雑誌第102巻第8号
- 先進医療.net:脳卒中予防のための食事と栄養 (2013/07/23)
- NHK健康ch:脳梗塞のリハビリ 急性期・回復期・生活期の3ステップ
- J-STAGE:(PDF)ボツリヌス療法とリハビリテーションの実践
- 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構:(PDF)螺旋偏平型ウェアラブルアクチュエータ群の開発とその廃用症候群予防療法への適用
- 国立研究開発法人 産業技術総合研究所:脳卒中後に生じる痛みを解明し治療するためのモデル動物を確立
- J-STAGE:(PDF)287 中枢性疼痛に対するアプローチ―情報間の不整合に着目して―
- 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス:[83] 続・脳卒中のリハビリテーション
- 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス:[88] 脳卒中の再発を防ぐ
- 日本高血圧学会:(PDF)高血圧医療ガイドライン2014
- 厚生労働省:(PDF)医療介護の連携(その3)