脳梗塞の原因と種類を知る
脳梗塞とは、脳の血管が詰まり血液が部分的に止まることで、さまざまな障害が起きてしまう疾患です。
脳細胞は再生しないため、脳梗塞で失われた機能は簡単に回復することはありません。そのため、一命をとりとめた場合でも、後遺症と向き合う必要がでてくることが多くあります。
できるかぎり予防を行うためには、まずはなぜ発症するのかを把握すること。適切な予防を行うために、ここでは脳梗塞になってしまう原因やその種類について解説します。
脳梗塞の主な原因
脳梗塞になる原因として、上位にあげられるのが「動脈硬化」。血液を循環させるために拡張と収縮を繰り返している動脈が、硬化して機能が低下してしまう症状です。症状の進行は非常に遅いため、自覚症状を感じにくいといわれています。
脳内の血管内で血液が詰まることにより、脳梗塞が起きるのです。動脈硬化が起きる箇所によって、脳梗塞のタイプが異なります。
3つの種類に分かれる脳梗塞
脳梗塞は3種類存在します。脳の細い血管がより狭まることで詰まるラクナ梗塞、血栓ができて流れ出すことで完全に詰まってしまうアテローム血栓性脳梗塞。血栓が剥がれ、抹消の動脈が詰まってしまう心原性脳梗塞です。脳梗塞とは詰まる血管の太さと原因でタイプが分かれます。
日本人に多くみられるラクナ梗塞は細い脳血管が狭くなって生じる
日本人に最も多い脳梗塞がラクナ梗塞です。その数は脳梗塞になった人の半数近くがこのラクナ梗塞だといわれています。
ラクナとは「小さなくぼみ」という意味を持つラテン語。脳の数ある血管のうち、直径15mm以下の細い脳血管(穿通枝)がすぼまって狭くなり、最終的に詰まってしまうのが原因。
この細い脳血管は脳の深い部分に血液を送り込んでいる重要な部分です。1本詰まってしまった場合、壊死する範囲は1.5cm以下であるため、脳の深い部分で1.5cm以下の梗塞または壊死があった場合はラクナ梗塞と診断されます。壊死するエリアが狭いことから症状が表れないケースもあります。主に片マヒ・感覚障害が起こり、意識障害になることはありません。そのため、無症状性脳梗塞とも呼ばれています。[注1]
高齢者層に発症しやすく、症状もゆっくり進行することが多いのが特徴です。夜間や早朝に手足がしびれる、話しにくいといった症状が元になって気づくこともあるようです。
症状の解説
ラクナ梗塞は症状が軽い場合、一度や二度の発症では症状が自覚できない場合があります。高齢者が発症した場合、老化による症状、認知症による症状などと勘違いされてしまうことがあり、発見に時間がかかることも多いようです。
一方、ラクナ梗塞が重症であった場合や軽い症状のラクナ梗塞が複数回発症した場合は、はっきりとした自覚症状が現れます。現れる可能性が高い症状については、次のようなものです。
- 歩行困難
- 咀嚼・飲み込みが困難
- 片側の手足に麻痺が生じる
- はっきりとした発音ができない
- 指先の細かな動きが困難になる
- ふるえやジストニアなどの錐体外路徴候
- 認知症
- めまい
これらは他の脳梗塞にも現れる自覚症状ですが、ラクナ梗塞は、なかでも認知症の症状と関係があります。
疫学研究の結果によると、脳梗塞をまったく発症していない人よりも、ラクナ梗塞を発症した人の方が認知症検査の得点が大きく下がりました。さらに、大梗塞と呼ばれる大きな範囲の脳梗塞を発症した人よりも、ラクナ梗塞を発症した人の方が、得点が低いという結果になりました。[注2]
この結果を見る限り、他の脳梗塞を発症した場合に比べて、ラクナ梗塞を発症した場合の方が、認知症の症状が現れることが多いといえるでしょう。
動脈硬化が原因のアテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞は、頸動脈や脳血管といった太い血管の動脈硬化がきっかけで起こる脳梗塞です。血管の中でコレステロールがお粥(かゆ)のように固まった状態となることから、粥状硬化(じゅくじょうこうか)やアステローム硬化とも呼ばれています。
血栓ができる理由は、動脈の内側にある壁に悪玉コレステロールが混ざることで、ドロドロとした液体が生まれるとこにあります。血栓が流れると、血管の先の方で詰まってしまい、血流を止めてしまうということになります。
アテローム血栓性脳梗塞は欧米人に多いといわれていますが、日本でも脳梗塞になる人の中で約20%がアテローム血栓性脳梗塞となっています。
アテローム血栓性脳梗塞の原因である動脈硬化は、高脂血症、糖尿病、高血圧といった生活習慣病によって進行してしまいます。そのため、普段の食事や生活に十分注意が必要です。
どのような症状があるか解説
アテローム血栓性梗塞の症状は、視野狭窄や不明瞭な発音など、一般的に脳梗塞の症状として知られている症状が多く見られます。
前兆としての症状は「一過性脳虚血発作」として表れますが、すぐに回復してしまうため、アテローム血栓性梗塞へ進行してしまうことが少なくありません。
一過性脳虚血発作は脳梗塞の前兆である疾患ですが、その症状は次のようになります。[注3]
- 視界が真っ暗になる
- はっきりとした発音ができない
- 片側の手足が麻痺する
- 言葉が出てこなくなる
- 認知機能の低下
- 歩行が困難になる
- 記憶障害
- 神経が麻痺する
- 吐き気・おう吐
これらの症状が一時的に現れて、一時間以内に改善してしまうのが一過性脳虚血発作の症状の特徴です。
一過性脳虚血発作の症状はアテローム血栓性梗塞の症状と同様で、アテローム血栓性梗塞を発症した場合は、これらの症状が後遺症として残る可能性があります。
また、アテローム血栓性梗塞はこれらの症状の他に、心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症などの疾患を合併することもあるため、予後の管理が非常に大切になるでしょう。[注4]
心臓の血栓が原因の心原性脳梗塞
心原性脳梗塞とは、心臓で何かしらの異常が起こって発生した血栓が脳の血管を詰まらせてしまう症状。[注5]
大梗塞とも呼ばれており、太い血管を詰まらせてしまうことで発症します。通常の生活において心臓から血栓が作られることはありません。そのため、過度の拍動リズムや動きが乱れることや血液が鬱滞するといった場合に発症します。大動脈を通ってくる血栓は心房細動、リウマチ性心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症といった疾患が原因で生成されてしまうことが多くあります。
また、脳梗塞になった人のうち15~20%が心原性脳塞栓症といわれています。特に予兆はなく、動脈が突然詰まってしまうので、症状が表れた時にはすでに脳梗塞の範囲が広がっていたというケースです。症状は、強いマヒ、失語症、半側空間無視、感覚障害などがあります。意識障害に関しては、他の脳梗塞と比較すると高い確率で症状の一つとして見られています。
症状の解説
心原性脳梗塞は突発的に発症する割合がとても高いため、前兆となる症状はないことが一般的です。[注5]
その中でも大変稀なケースで、徐々に進行するタイプの心原性脳梗塞もあります。その場合はアテローム血栓性梗塞のような前兆症状が現れます。
- 食べ物・飲み物が口からこぼれる
- 平衡感覚がなく真っすぐ歩けない
- ろれつが回らず発音がはっきりしない
- 片側の手足に麻痺が生じる
- 共同偏視(両目が左右に向いたままとなる)
- 手足の感覚がなくなる
前兆としての症状が現れることは非常に珍しいですが、「心原性脳梗塞は突然発症する」という概念があるため、アテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞と誤診される可能性も高いです。
また、心原性脳梗塞の原因が心臓にあるため、その症状が脳血管とは別の部分で表れることが多くなっています。
特に、心房細動、心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症などの心疾患を持っている人は、血栓ができやすい状態にあるため、特に定期健診などの随時確認による注意が必要でしょう。[注5]
心臓の拍動リズムが不規則になるなど、心臓の動きに異変を感じた場合は、常に疑いをもって病院に行き、診察を受けることを強く意識していただきたいです。その行動が心原性脳梗塞の予防に繋がります。
脳梗塞が起こる原因をまとめる
脳梗塞と、一言でいってもさまざまな原因で発生します。
何らかの原因で血管が細くなる、血の塊である血栓ができることによって血流が止まることが起きます(梗塞)。
その結果、脳に栄養や酸素が届かずに脳細胞が障害を起こします。血栓性・塞栓性・血行力学性の3種類の原因についてまとめています。
【血栓性】血栓が詰まることが原因で梗塞が起こる
動脈硬化によって血管の幅が狭くなり、結果的に血栓が原因で閉塞するのが血栓症です。血栓だけでなく、アテローム(角質と皮脂が溜まった腫瘍)によって、血管の内側が狭くなります。それに加えて膨らんだアテロームが破れて中身が排出することが原因で動脈が詰まってしまう場合もあります。
血栓は、血管が損害されると失血防止の役割を持つ血小板とフィブリンというタンパク質によって血が固まったものです(凝血塊)。血管に傷がない場合でも、その時の生活環境によって、突如として血栓が作られる場合があります。
その血管内を流れて塞栓となってしまうケースがあります。前触れなく徐々に進行するため、自覚症状を感じる方は割合として、とても低いです。
【塞栓性】血栓や血管外から入った異物が原因で起こる
血栓や血管外から入った異物が原因で、血流が止められてしまうことを塞栓性と言います。心臓の不整脈(心拍が不規則で)によって血液が淀んでいると血栓ができると、その血栓が脳内の血液中を遊離し、滞り血管が塞がれてしまうという過程となっています。
コレステロールが原因のアテロームの表面にできた血栓が剥がれだして、動脈を詰まらせることも原因の1つとなります。特に前触れなく発症するケースが多く、脳の太い血管が詰まってしまうと重症に至るケースも記録されています。心原性脳梗塞と同じメカニズムです。
【血行力学性】主幹動脈の閉塞が原因で血流が滞る
脳に栄養・酸素を送っている太い血管である主幹動脈が縮まって、閉塞するといったことで血流が悪くなる血行力学性。動脈が大幅に狭まっていても辛うじて血液が流れている場合があります。血管が完全に詰まっていても、それを補うために発達する他の血管「側副血行路」という血流路の効力で、血液が流れているケースもあるので、症状が出ない場合も見られます。[注6]
その場合、急激に血圧が下がる、脱水状態になるなどの症状が見られることがあり、それによって梗塞する場合もあるので注意が必要です。
血栓が動脈のどこを塞ぐかによって種類が異なる脳梗塞
脳は大脳・小脳・脳幹部の3つに分けられており、どの動脈がどのようなメカニズムで詰まるかで脳梗塞の重度が異なります。大脳だと頸動脈、小脳・脳幹部だと椎骨や脳底動脈など異なった動脈で血が流れているのです。働きは異なるため、脳の血管が1つの組織が詰まってしまうと、そこの働きが止まることになります。その部分の大きさ・位置などに応じた脳梗塞の症状が発症するのです。
原因についてまとめ
脳梗塞の原因は、血栓性、塞栓性、血行力学性の3つに分けられますが、これらの原因を見てみると、いずれの原因も「血液の流れが悪くなること」に起因していることが分かります。
簡潔にまとめると、脳梗塞の主な原因は次のようになるでしょう。
- 血液が固まって血栓を作る
- 血栓が血管を塞ぐ
- 血管が詰まって血液が流れなくなる
原因は3つに分けられていますが、結局は「血液がドロドロになって血栓が作られる」ということが多くの割合を占める原因だと言えます。
例えば、動脈硬化が起きていても、血液がサラサラで正常に流れていれば、血栓が作られる可能性は低いです。
また、血管内部が狭くなっていなくても、血液がドロドロで一か所に溜まりやすくなっていたら、血栓ができる可能性があります。
この点から考えると、脳梗塞を予防するために最も大切なことは、「血液をサラサラな綺麗な状態に保つこと」だと言えます。
[注4]公益財団法人 日本心臓財団:急性心筋梗塞発症直後に脳梗塞を合併したアテローム血栓症の1例