廃用性症候群

脳梗塞を発症した高齢の方などは、廃用症候群を引き起こすことが多いと言われています。廃用性症候群が悪化すると、体だけでなく、精神面にまで影響を及ぼしてしまい、日常生活が困難になることも。こちらでは、廃用性症候群の症状の特徴や原因、対処法についてご紹介しているので、対策や改善に役立ててください。

脳梗塞の後遺症・廃用性症候群は
なぜ起こるのか?

廃用性症候群は、別名「生活不活発病」とも呼ばれており、何らかの疾患やケガなどで体の機能が低下したことをきっかけに、体を動かさない状態が長期間続き、体や脳の機能が衰えてしまう状態のことです。

廃用性症候群が引き起こされる原因は、脳梗塞だけに限らず、ベッドでの長期間の安静が必要となる疾患やケガの後、車いすの使用など様々です。また、栄養が足りていない状態が原因で引き起こされることもあります。

高齢者では軽度の侵襲や短期間の安静臥床でも廃用症候群を認めやすい。高齢者の廃用症候群の約9割が低栄養であり、廃用症候群は安静臥床と低栄養の両者による病態といえる。

出典:静脈経腸栄養 Vol.28 No.5 2013『(PDF)高齢者の廃用症候群の機能予後とリハビリテーション栄養管理』

こちらの文献にあるように、高齢の方の場合は、動かない期間が短期間であっても廃用性症候群になりやすく、できるだけ早く療養から離れることが大切です。

廃用性症候群の症状と特徴について

体を動かさないことで引き起こされる廃用性症候群は、いざ体を動かそうとするまで、その症状をはっきりと自覚できないこともあります。

療養中であっても適度に体を動かして、発症前に予防することが大切ですが、特徴的な症状を知っておけば廃用性症候群に早く気付くことができるでしょう。

廃用性症候群の主な症状は、筋委縮、骨委縮、拘縮の3つあるため、それぞれについて詳しくご紹介します。

筋委縮

筋委縮は別名「サルコペニア」ともよがれており、筋肉量の減少、筋力の低下、歩行速度の低下などの身体的な機能の衰えのことを指します。

筋委縮の状態では、転倒や骨折などのリスクが高まりますが、筋肉の萎縮によって動かなくなることでさらに筋委縮が進行し、代わりに脂肪が蓄積され、脂質異常症となる可能性もあるとされます。

・サルコペニアでは転倒、骨折、フレイルとなるリスクが高い。
・サルコペニア肥満では脂質異常症となるリスクが高く、また心血管疾患による死亡、総死亡のリスクが高い。
・サルコペニアを合併すると癌患者の生存率が低下する。
・サルコペニアを合併すると手術の死亡リスクが高くなる。

出典:国立開発研究法人 国立長寿医療研究センター『サルコペニア診療ガイドライン2017年版』

その他、これらのようなリスクがあるとされ、脳梗塞後の血栓ができやすい状態の方にとっては、心血管疾患による死亡リスクが高まるということは、直接的なリスクと言えるでしょう。

骨委縮

骨委縮は、筋委縮のように骨が委縮してしまい、骨粗しょう症を引き起こすことです。

具体的には、骨密度の低下、骨塩量の減少、骨面積の縮小が同時に起こり、骨がもろく、弱い状態になってしまいます。骨塩量とは、骨の中に含まれるミネラル分の量のことで、カルシウムもミネラルに含まれる栄養素です。

骨委縮の状態をまとめると、「骨が栄養不足になり空洞が多くなった状態で、骨が小さく縮むこと」だと言えるでしょう。骨委縮によって弱くなった骨は、筋委縮による転倒の際の骨折のリスクを高めます。

拘縮

拘縮とは、関節を長期間動かさなくなることで可動域が狭くなることや、全く動かなくなることです。関節を動かさなくなるとその部分の循環が悪くなり、関節部分の組織に癒着が起こることが原因だとされています。

関節の癒着は約4週間動かさないことで開始されますが、先にご紹介したように高齢の方では早く起こりやすいため、もっと短い期間で拘縮が引き起こされる可能性も。

一旦起こってしまった拘縮を治療するには大変な時間がかかり,予防が第一である.拘縮の予防には不必要な固定,安静を避けることが必要であり,最低1日に2回,それぞれ3回づつ関節の全可動域を動かす.

出典:日本義肢装具学会誌 Vol.14 No.1 1998『(PDF)廃用症候群』

このように、一度拘縮が起きてしまうと治療が大変なので、適度に関節を動かしてあげることが大切です。療養中であっても、関節を動かす程度なら簡単にできますし、家族が動かしてあげることでも予防することができます。

廃用性症候群が起こったら…
対処法と回復のプロセス

廃用性症候群は脳梗塞による後遺症ではないため、予防することが大切です。

とは言っても、脳梗塞を発症したすぐ後に、筋力を鍛えるなどの運動は無理でしょう。そこで、治療中や療養中でも実践できる、廃用性症候群の予防法を知っておきましょう。

治療中はベッドの中でもできるストレッチを

脳梗塞発症直後は、歩くこともできないという状態になることも多いもの。それでも、指の関節、手首、足首、肘、膝などを曲げ伸ばしすることはできるでしょう。

ベッドの中でも良いので、先の文献でも記載されていたように、1日2回、3回ずつ、全身の関節を動かすようにすれば、拘縮を予防することに繋がります。

また、筋委縮や骨委縮を予防するためには、ベッドに横になっていることを避ける他、方法はありません。ですが、「等尺性運動」と呼ばれるリハビリは、ベッドでの安静が必要な方でも実践できるので、病院で相談してみてください。

リハビリはなるべく早めに開始しよう

リハビリが始められるような状態になったら、1日でも早く開始することが、後遺症の軽減と廃用性症候群の予防のために大切です。

最初は、ベッドから立ち上がって上半身を動かす、つかまりながらゆっくりと歩行するなどの、簡単な動きから始めましょう。

拘縮予防は関節を動かすだけでも可能ですが、筋委縮は筋肉に負荷をかけること、骨委縮は骨に負荷をかけることが必要です。特に高齢の方の廃用性症候群の回復は困難だと言われているので、積極的に体を動かすことが最も有効です。

この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献