しびれ

しびれは麻痺と並んで脳梗塞の発症後に最も起こりやすい後遺症のひとつです。しびれが現れてしまう理由や症状の特徴、リハビリや回復のプロセスについてまとめて解説します。

脳梗塞の後遺症・しびれはなぜ起こるのか?

痛みやしびれというのは本来、体に何らかの刺激が加えられていることや、体のどこかに炎症などの異常な事態が起こっていることを知らせるためにある、警告信号のようなものです。

脳梗塞などで脳やその周辺の神経、間隔中枢などにダメージが加わると、痛みやしびれの信号が正常に働かなくなります。

体には特に異常がないのにも関わらず、常に手足などへしびれを感じるようになってしまい、これが長期間続いてしまうのです。

しびれが起きる原因

脳梗塞の後遺症でしびれが起きる原因は、脳の「視床」という部分にダメージが与えられ、視床が正常に働かなくなることです。

視床の小梗塞によって対側半身の感覚が低下する(puresensorystroke).刺激で焼け付くような痛み(hyperpathia)が出現する.感覚障害が半側口周囲と上肢末梢に限局することがあるが,これは手掌口症候群(cheiro-oralsyndrome)と呼ばれている.

出典:日本大学医学会『(PDF)「感覚器」しびれ・感覚障害』

視床という部位は間脳の中にあり、脳の中でも特に「感覚伝導路」の中間に位置する器官で、嗅覚や触覚、味覚など、感覚に関する様々な情報を大脳皮質へと受け渡す働きを担っています。

その器官が正常に機能しなくなるため、実際には存在しないしびれという感覚が、まるで本当にあるかのような錯覚に陥るのです。

しびれが錯覚であるという根拠

後遺症のしびれが「信号の異常」であることを示す例として、脳梗塞発症後の方から得たインタビューの結果が報告されています。

こちらのインタビュー結果は、「日本看護科学会誌」に掲載された論文で見ることができ、参加者は33~82歳の男性13名、女性12名でした。

はっきりとした「正座をした後や局所麻酔のようなしびれ」を感じてはいるものの、そのしびれが強くなる時や弱くなる時もあり、そのタイミングについても調査を行っています。

しびれが強くなる時

しびれの症状が強くなる時を対象者に聞いてみると、「しびれに意識が向いている時」であるという特徴があります。

つまり,しびれ・痛みの増強には「動かすことによるもの」「触れることによるもの」「自然環境によるもの」が要因として分類される.

出典:日本看護科学学会『(PDF)脳卒中者が体験しているしびれや痛みの様相』

「自然環境によるもの」とは、寒さや気候の変化のことを指しています。このように、皮膚に何らかの刺激が加わって、その部位に意識が向いているときに、しびれが強くなると答えた方がほとんどでした。

しびれが弱くなる時

上の結果に対し、意識が他のことに向いていると、しびれが弱くなると答えた方も非常に多く見られました。

このような「忘れている」時間以外に,《リラックスした時》《身体を動かす》《温める》《機能回復に伴って》などにより,緩和や軽減がもたらされていた.

出典:日本看護科学学会『(PDF)脳卒中者が体験しているしびれや痛みの様相』

特に、料理に一生懸命になっている時や、考え事をしている時は「しびれを忘れている」という方もおり、脳梗塞の後遺症によるしびれは、体の異変を表しているわけではなく、神経がしびれだと誤認させているだけということになります。

しびれの種類と症状の特徴について

脳梗塞の後遺症として現れるしびれや痛みは、大きく分けて2種類が存在します。「中枢性」と「末梢性」の2種類で、その種類によって原因や特徴は異なります。

「しびれ」と一言で言っても、しびれが引き起こされている原因は1つではないのです。

中枢性の疼痛やしびれ

「中枢性のしびれ」は、外界から得た感覚が神経回路を通って、視床から大脳皮質に伝えられるまでの経路のいずれかに、直接脳梗塞によるダメージが与えられた時のしびれです。

原因の項目で先にご紹介したのが中枢性のしびれであり、手足にしびれの原因がないにも関わらず、しびれていると脳が誤認してしまいます。

中枢性のしびれの特徴とは

脳のどの部分で脳梗塞が起きたかによって、しびれが現れる位置も変わってきます。例えば、大脳半球という部分へのダメージであれば、体の半身にしびれが現れます。

一方で、橋中部という部分以下の脳幹に障害が起きた場合は、体の半身のしびれに加え、片方の顔面にしびれが現れるという点が違いです。

しびれの原因が中枢性であった場合、痛みや温度を感じる感覚も同時に鈍ることがありますが、触覚が全くなくなるということはありません。

末梢性の疼痛やしびれ

「末梢性のしびれ」は、手足の運動麻痺から引き起こされるしびれのことで、麻痺に伴って関節を動かさないと、拘縮が起こり、その関節を動かそうとした時にしびれや痛みが現れます。

この症状は、「末梢神経障害(ニューロパチー)」と呼ばれており、脳梗塞による拘縮の他、糖尿病でも引き起こされます。

また、疾患によるものだけではなく、例えば、手足を切断した後に、幻視痛を感じるのも末梢神経障害のひとつです。

末梢神経障害の定義としては、「神経系の損傷や障害を受けた際に発生するしびれや痛み」となっており、中枢性のしびれのように脳が原因ではないものがこちらに含まれます。

末梢性のしびれの特徴とは

末梢神経線維は、運動神経線維、触覚神経線維、痛覚神経線維、自律神経系の節前繊維の4つで形作られており、機能障害を受けた神経線維の組み合わせによってしびれの感覚が異なります。

例えば、正座をした後にしびれを放置しておくと、しびれの感じ方が少しずつ変わってきますが、それは順番にこれらの神経線維が回復してきているからです。

ただし、脳梗塞で末梢性のしびれが起きることは稀で、ほとんどの場合は中枢性のしびれだと考えられるでしょう。

しびれが起こったら…リハビリと回復のプロセス

しびれは約1割の方に発生すると言われているため、脳梗塞の後遺症としてはかなり一般的なものだと言えます。

その治療法としては、神経ブロック療法などがありますが、特に効果を示さないケースも多く、長期的なリハビリが必要となることがほとんどです。

その理由としては、リハビリテーションや看護の領域においても、しびれのリハビリについての研究が遅れており、効果的なリハビリ方法が見つかっていないことが挙げられます。

そのため、神経ブロック療法、神経破壊療法などの手術療法、抗うつ剤や抗痙攣剤などの薬物療法、漢方薬の処方、リハビリなどの治療を組み合わせて、効果的な方法を探っていかなければならないのが現状です。

しびれを回復させるためのプロセスについて

中枢性のしびれの場合は、脳梗塞の発症から数か月後に起きることも多く、回復期を過ぎていた場合は、根気強いリハビリが必要となります。

脳梗塞発症直後からしびれがある場合は、リハビリの効果が現れやすい回復期に合わせて、なるべく早めにリハビリを開始しましょう。

回復期に集中的にリハビリを行えば症状の軽減率も高いと思われますが、しびれの場合は症状が長期化することが多く、退院後も通所リハビリや訪問リハビリを継続して回復を図ります。

ただし、しびれを完全に回復させることは難しく、特に中枢性のしびれは、慢性的な症状となることが多いと言われています。

しびれ回復のために行われるリハビリについて

中枢性のしびれ回復のリハビリは片麻痺のリハビリ法と同様のものが使われ、一般的に理学療法士が一人一人の症状に合わせて、リハビリ内容を組み立てていきます。

リハビリの一例を挙げると、「表面電極刺激装置」を使って、しびれが起きている部位に微弱な電流を流すことで機能回復を図る方法があります。

このリハビリ法は片麻痺がある場合にも有効で、手で訓練を行った場合、しびれ改善効果の他にも、握力の増加、痙縮の改善などが見られるとされます。

また、末梢性のしびれについては、関節可動域を広げるための機能訓練、しびれのある部位に細かな動きをさせる巧緻動作訓練、装具を使った方法などがあり、電流を使ったリハビリ方法も有効です。

この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献