めまい

脳梗塞の後遺症としても現れることがある、めまいの症状についての特徴や原因、治療内容、回復のプロセスなどをまとめて解説します。

脳梗塞の後遺症・めまいはなぜ起こるのか?

脳梗塞を発症する前の前兆や、初期の症状としてめまいが現れることは知られていますが、脳梗塞の後遺症としてもめまいの症状が残ることがあります。

めまいは脳の病気に起因するものと、内耳の病気に起因するものとがあります。脳の疾患によるめまいは、脳への血流が不足することで脳貧血を起こしてしまって起こるめまいです。

脳貧血によるめまいの特徴として、フワっとしたりふらふらしたりする、立ちくらみのような症状があります。

脳貧血によるめまいについて

脳梗塞の後遺症として、めまいを訴える患者は非常に多いと言われています。その確率は、頭痛やしびれなどの代表的な後遺症発生率とほとんど変わりがないくらいです。

脳血管障害後遺症としてめまいや耳鳴りを訴える患者は頭痛,しびれなどと並んで多いが,これらは皆,主観的なものであるため,客観的な評価は難しい。

出典:耳鼻咽喉科展望会『(PDF)脳梗塞後遺症に伴うめまいに対する塩酸インデロキサジン(エレン(R))の有効性』

このように、実際にはかなり多い後遺症であるめまいは、診察による「医学的な判断」を下すことが難しいため、あまり目立つことがない後遺症だと考えられます。

脳梗塞の後遺症でめまいが起きるメカニズム

脳梗塞での「脳貧血」によってめまいが起きるメカニズムは、主に「迷路動脈」への血流が低下することによります。

AICA の灌流する領域に橋下部外側に位置する前庭神経吻側部が含まれることとAICA より主に分岐する LA の血流低下により蝸牛前庭系の虚血が生じめまいは必発であり,難聴,耳鳴などをともなうことが多い。

出典:一般社団法人 日本めまい平衡医学会『(PDF)3.脳血管障害によるめまい』

「LA」というのは迷路動脈を指しており、迷路動脈は前庭、三半規管など、体の平衡を保つための部分を流れています。

動脈硬化によって血管が狭まった状況になると、迷路動脈への血流が阻害されて、平衡感覚を維持するための機能が働かなくなるため、後遺症としてめまいが残るのです。

また、後遺症としてのめまいは、耳鳴りと併発することがとても多いと言われています。

めまいの種類によって原因は変化する

次の項目でご紹介しますが、めまいには「浮動性のめまい」と「回転性のめまい」の2種類があり、その種類によっても原因は変わります。

特に、脳梗塞の後遺症となる確率が低い「回転性のめまい」は、体の平衡を維持する機能にダメージを負ったときに現れ、脳貧血が原因となる「浮動性のめまい」とは大元の原因が違うのです。

1.大脳病変とめまい テント上の脳卒中にみられるdizzinessは脳血流の全体的な低下によるであろう.しかし同病変でも3-4%に回転性めまいがあり,その機序は明確でない.

出典:藤島・楠田『(PDF)脳卒中とめまい』

ただし、このように、脳血流が低下したことで引き起こされるめまいの中にも、少数ながら回転性めまいが現れる場合もあり、その理由ははっきりと分かっていません。

めまいの種類と症状の特徴について

脳梗塞の後遺症として起きるめまいには、大きく分けて2種類が存在します。

種類はめまいの現れ方によって変わりますが、脳梗塞で脳のどの部分にダメージを受けたかによって、現れるめまいの種類も異なるのです。

また、脳機能障害以外が原因である場合もあるので、ご自身のめまいがどのような感覚で、どの種類のめまいなのかを把握し、その原因を知っておく必要があるでしょう。

フワフワする感覚の「浮動性のめまい」

フワフワする感覚のめまいは、「浮動性のめまい」と呼ばれており、脳梗塞をはじめとする脳疾患で引き起こされるめまいは、主にこちらが多いと言われています。

浮動性めまいの原因は非常に多く、脳全体に行き渡る血液量が少なくなった場合、大脳、脳幹、小脳などに通っている神経の損傷があった場合、体の平衡感覚を保っている前庭神経系にダメージが生じた際に発生します。

また、高血圧や脳血管の硬化性変化によって起きることもあります。その他、長期間に渡る治療でずっと横になっていたにも関わらず、治療が終わってベッドから起き上がることに伴って、血行が変化することでも発生します。

浮動性のめまいの特徴として、手足のしびれ、視界が二重になるなどの症状が同時に現れることが多いとされます。

グルグルと回る感覚の「回転性のめまい」

グルグルと目が回る感覚のめまいは、「回転性のめまい」と呼ばれており、めまいの強度が強いこと、体のバランスを保ちにくくなることなどが特徴です。

回転性のめまいは、脳梗塞によって「前庭神経核」にダメージを負った場合に現れます。前庭神経核は、体の平衡機能を司っている部分なので、その機能に障害が及ぶことで回転性のめまいを感じるようになるのです。

前庭神経核とは、耳の半規管や耳石器から得られた感覚や、視覚などの情報を処理している部分で、これらの情報をトータルで管理して体の平衡感覚を保っています。

そのため、前庭神経核がある「脳幹」にダメージが及んだ場合、平衡感覚を維持することができなくなり、後遺症として回転性めまいが残るのです。

また、「小脳」は前庭神経核によって平衡維持機能を調整する役割があるため、小脳にダメージが及んだ場合も、回転性のめまいが現れる場合があるとされます。

めまいが起こったら…リハビリと回復のプロセス

脳梗塞の後遺症として、めまいや平衡感覚の障害が残った場合は、リハビリを行って改善を目指していきます。

その内容としては、体のバランスを保つ能力を強化することや、筋肉を鍛えるリハビリなどが中心です。

その他のリハビリと同様、なるべく早めに開始した方が、リハビリの効果は現れやすいでしょう。

めまいを回復させるためのプロセスについて

めまいの症状は、脳梗塞急性期を過ぎれば落ち着く可能性もあるため、急性期を過ぎても症状の程度が変化しない場合がリハビリ対象です。

脳梗塞後のリハビリは、開始が早ければ早いほど効果的だとされるため、急性期を脱し、安静にしている時のめまいがなくなった時点で開始されます。

脳梗塞後のめまいを改善させることは、平衡感覚の維持を司っている「前庭神経系」の働きを、他の神経に代替させることが目的となります。

そのため、実際に体を使った基本訓練を行って、前庭神経系の代償を促すことから始めます。

前庭神経系の代償が進んできた後は、より体の安定性を増すため、体幹の筋肉を鍛えるトレーニングに進むことが一般的です。

めまい回復のために行われるリハビリについて

体のバランスを保つためのリハビリ

めまいが残っているということは、体の安定性が失われているということなので、体のバランスを取れるようになることが最優先です。

基本的なリハビリではありますが、椅子から立ち上がったり座ったりを繰り返す、ゆっくりと歩行をするなどが有効だとされます。

これらの基本的な動作を繰り返すことで、前庭神経系の代替機能が出来上がり、少しずつ体の平衡感覚が取り戻されていくためです。

筋肉を鍛えるためのリハビリ

体をしっかりと安定させるために、筋肉を鍛えるためのリハビリが取りいれられることもあります。

ただし、この場合は、体の芯の部分にある「体幹」を鍛えることであって、表面的な筋肉を鍛えるトレーニングではありません。

バランスボールや不安定なクッションなどの上に座り、体のバランスを取ろうとすることで、体幹は自然と鍛えられていきます。

体を臥せていない状態に慣れさせる

「浮動性めまい」のところでもご紹介しましたが、脳梗塞の治療が終わった後のめまいは、血流の変化によるものが原因の場合もあります。

その場合は、体幹トレーニングや歩行訓練よりも、ベッドから起き上がっている時間を増やすことが有効でしょう。

起き上がっている体の状態に慣れてくると、自然とめまいの症状が軽減されることもあるので、少しずつ体を慣らしていってください。

めまいの特効薬はあるのか?

医薬品によるめまいの治療を行うことは可能で、症状を抑えるためには、「7%炭酸水素ナトリウム」の点滴か静脈注射が用いられます。

脳循環改善薬、神経ビタミン、抗不安薬などが処方されていたこともありましたが、再審査の結果、」現在では脳循環改善薬は使用されていないようです。

また、「塩酸インデロキサジン」は脳神経の伝達を改善する作用を持つ医薬品ですが、めまいや耳鳴りにも効果的だと報告されており、めまい治療に用いられることがあります。

ですが、これらの治療薬は「特効薬」とは言えず、思うように症状が改善しないケースも存在します。

めまい治療に用いられる漢方薬

医薬品でめまいを改善できなかった方の中には、漢方薬を服用して、症状の改善を図る方もいるようです。

効果的な漢方薬としては、回転性のめまい、浮動性のめまいに対して適用になる「苓桂朮甘湯」が最も良いとされています。

めまい治療に使われる漢方薬は、慢性頭痛の漢方薬とも共通するとされているので、「呉茱萸湯」「桂枝人参湯」「釣藤散」「葛根湯」「五苓散」の5つも適用になる場合があります。

ただし、漢方薬はその人の体力の度合いや体形、体調によって処方が変化するので、漢方薬を服用したい場合は、医師に相談の上処方してもらうようにしてください。